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「あ、ああっ、・・・・・・も、柊。いいから、離せ」

 はあはあと忙しなく呼吸を繰り返した後、忍人はゆっくりと閉じていた瞼を持ち上げた。精を吐き出して落ち着いた身体を更に昂らせるように柊が敏感な薄い肌を吸う。
 そのまま身を預けようとして、忍人はふっと我に返り、柊の髪を掴んだ。忍人の手が頭を掻き回すのに、柊は下肢に埋めていた顔を上げる。唇がてらてらと唾液と白濁に濡れていた。卑猥な光景に忍人は思わず目を逸らす。汗に濡れた内腿を愛撫しながら、指はその更に奥を掻き回していた柊はその動きを止めて、忍人の顔を窺う。
 忍人はぐっと噛み締めていた唇を解いて、近付いてくる柊の顔を引き寄せた。唇が重なる。珍しい忍人からの口吻けに柊は微かに目を瞠って、そのまま身を任せた。
 辿々しくも一生懸命に舌を絡めてくる忍人に答えるように互いの唾液を交換し合う。深い口吻けに酸素不足になりかけた頃、忍人は唇を離して起き上がると、柊の身体を押し倒した。
 読めない展開に柊はぱちぱちと何度も瞬きを繰り返す。その間にも忍人は柊の肌を痕が付かない程度に軽く啄み、首筋に口吻けて、愛撫を施していく。柊は必死に慣れない行為を行う忍人を見つめ、笑みを零した。

「何を、笑っている」
「いえ。忍人がこんなに積極的になってくれるなんて珍しいな、と。プレゼントですか?」

 頬に朱を走らせた忍人が見咎めるように柊を上目遣いで睨んだ。柊はそんな忍人の黒髪を梳いて、満足そうに忍人の滑らかな頬を撫でる。
 その手を振り払って、忍人は不機嫌そうに眉を顰めた。少し躊躇いながら投げ遣りに云い放ち、忍人は身体をずらして、顔を伏せる。

「お前が・・・・・・俺を欲しいと云ったんだろう」

 目の前で緩く勃ち上がっている柊のそれを指でつつ、となぞって、忍人は意を決したように唇を寄せた。柊は忍人のその行為を内心驚きながら、甘受する。
 忍人は初めに恐る恐る舌を伸ばして、先端をちろちろと舐め上げた。そうしてアイスキャンデーを舐めるように、ゆっくりと幹にも舌を這わせていく。
 ぎこちない口淫は柊の欲を的確に高めていく訳ではない。だが、温かく濡れた、忍人の赤い舌が己の欲望に絡み付く様を見ただけで、どくんと鼓動が跳ねて、自身が硬くなるのが解った。普段、潔癖で性的な匂いなど微塵もさせない忍人が自ら柊の欲を咥え込んでいる。何時まで経っても羞恥が抜けず、受身姿勢の忍人が柊に奉仕している。そのことが柊を興奮させた。
 忍人が口淫をするのは何も今日が初めてのことではない。男に奉仕する方法を柊は忍人に時間をかけて教え込んだ。けれど、忍人は自分からこのような行為をすることは決して無かったのだ。

「っ、本当に君は、」

 予想外のことをしてくれますね。吐息混じりに呟けば、忍人は自身を中程まで口腔に収めたまま、何だと首を傾げた。頬の内側の柔らかな粘膜に先端が押し付けられて、柊はごくりと息を呑む。
 同時に脈打って膨らんだそれに忍人は微かに目を見開いて、ねっとりと追い立てるように舌を絡めた。白い指先が傷付けないよう、細心の注意を払って袋を揉む。唇から零れた透明な滴が幹を伝って、根元の茂みに落ちた。

「っはっ・・・・・・ふ・・・・・・」

 息が苦しくなったのか、一度口の中のものを吐き出して、忍人が大きく呼吸をする。熱を持った息が育ち切ったそれにかかり、ふるりと揺れた。
 深呼吸を繰り返した後、忍人は今度は唇と指で幹を愛撫し始めた。熟れて解けた唇が柊の裏筋を捉えて、優しく食む。たらたらと流れる先走りを舌で掬い取って啜ると、柊がぎゅっと髪を掴む感触がした。押し付けるように動くその手に抗わず、忍人は極めつけに硬くそそり立った屹立を咽喉奥まで咥え込む。口を目一杯開いて、両の手で根元を刺激しながら、頭を動かして唇で扱き上げた。鈴口を舌で攻め、先走りを吸い上げるとびくびくと震える。

「・・・・・・忍人、もう」

 耐え切れない、と熱で擦れた声で告げると、柊は忍人の頭を離そうとした。このままでは口の中に出してしまう。しかし、忍人はそれを拒否するように更に刺激を与えていく。
 窺うように見上げた先の、目を伏せて快楽に浸るその表情が余りにも色っぽくて、忍人は柊の顔を見つめたまま、ラストスパートをかけた。この顔をもっと歪ませてみたいと思った。考えてみれば、忍人は余り柊が射精する時の顔を見たことが無い。そもそも自分の内へ迎え入れている時は自分の快感を追うのに精一杯で、まともに柊の顔を見る余裕など有りはしない。
 じゅぽじゅぽと音を立てて、忍人の薄い唇から柊自身が出入りする。手も指も唇も舌も全てを駆使して、忍人は柊を追い詰めていく。
 忍人の激しい愛撫に湧き上がる突き抜けるような快感に背中を押され、柊はつい我を忘れて腰を突き出した。咽喉の奥の無防備な部分へ先端が当たり、忍人は噎せ返る。生理的な涙が眦から零れ落ちた。柊が切羽詰った声で忍人を呼ぶ。瞬間、柊のものが弾けた。忍人は咄嗟にぎゅっと目を瞑る。

「忍人っ!」
「んうっ、う、うう。んんんっ・・・・・・!!」

 どぷりと放たれる大量の精。生臭いそれが一気に忍人の口腔を満たしていく。吐き気に襲われながらも、忍人は咽喉奥にまで注ぎ込まれた白濁を少しずつ飲み下していった。僅かに開いた隙間から柊が自身を引き抜くと、受け止め切れなかった白い体液が忍人の唇から溢れ、顎を濡らす。忍人の咽喉が何度もこくりと上下して、柊の欲を内部へ取り込んでいく。
 柊は射精後の脱力感に荒い息を吐いていたが、ハッと意識を取り戻すと、忍人の顔を覗き込んだ。忍人は最後に残った液体を眉を顰めて咽喉へと追いやって、不機嫌そうに柊を見上げる。

「忍人? 大丈夫ですか!?」

 至極当たり前な話だが、忍人は精液が嫌いだ。一度無理矢理に飲ませたら、余程苦しかったらしく、完璧に機嫌を損ねてしまった。それ以来、忍人に精液を飲ませたことは無い。
 それが今日は大人しく飲み下したことに柊は驚いて、慌てた。またあの時のように最中に不興を買うことだけは避けたい。
 そんな柊の懸念を無視して忍人は顎に伝った白濁まで指で掬い、舌先で舐め上げた。そして、眉間の皺を深くして、一言。

「・・・・・・不味い」

 と呟いた。柊は思わず苦い笑みを浮かべる。しかし、忍人がこうして口にしてくれたことが柊には嬉しかった。自分から男のものを咥え、我慢して飲んでくれる。普段の忍人からは考えられない痴態だ。今、体液に濡れた唇を拭う様も吐き出したばかりの柊の欲に再び火を付けるには十分すぎる艶っぽさだった。

「忍人・・・・・・?」

 更には忍人は柊の腰を跨ぐような格好を取ると、屈んで柊の唇を舌で辿った。自然、唇が合わさる。忍人の口内は精の苦味が残っていて、自分のものであるそれに柊は若干抵抗を覚えたけれど、忍人が仕掛けてくる濃厚なキスに溺れていく内にどうでもよくなっていった。
 煽るように忍人は柊の口腔を攻め立てる。何時の間にこんなにキスが上手くなったのかと頭の片隅で思って、自分が何度も指南したのだと思い直した。柊の癖をそのまま移したかのような口吻けは的確に弱いところを狙ってくる。飲み込みきれずに溢れた唾液が顎を伝う。

「はっ、ふ・・・・・・」

 離れた唇から互いに熱い吐息が漏れる。潤んだ眼差しがかち合って、その奥にある欲が燃える様を二人、間近に感じた。柊が忍人の頬に手を伸ばすと、忍人はきゅっと目を瞑った。
 恥じらうように頬を染めて、自分の指を咥え、舌でしどどに濡らしていく。柊は忍人のするがままに任せて、頬を緩やかに撫で、汗に濡れた前髪を優しく梳いた。珍しく積極的な忍人を遮るなんて勿体無いことは出来ない。
 忍人は柊の胸の辺りに片手をつくと、腰を持ち上げて、唾液塗れになった長い指を自らの後孔へ這わせた。一度柊の指を飲み込んだそこはある程度解れてはいたが、柊のそれを受け入れるにはまだ少し固い。唾液を擦り付けるようにして、中へ指を潜り込ませる。

「ふっ、ぅ」

 内側を広げるように二本の指を動かして、忍人は唇の端から堪え切れない声を零す。奥まで押し込み慣れたところで引き抜いて、三本目を添えて突き入れる。三本目を難なく受け入れたそこはひくひくと慄いて、指なんかでは物足りないと訴えているようだった。唇を噛み締めて、忍人は切なげに眉根を寄せ、異物感と快感の入り混じった刺激に耐える。
 その表情を見上げて眼福だと思いつつ、柊は手持ち無沙汰になった手で忍人に愛撫を加えた。首筋を辿って、初めに戯れるほどにしか触れなかった胸の突起を撫でる。白い胸の上で赤く膨れ上がって主張するそこを爪先が掠める度に忍人はびくんと肩を揺らした。

「ん、んぅ・・・・・・っあ・・・・・・」
「こんなに真っ赤にして・・・・・・いやらしいですね、忍人は」

 自分で後孔に指を含ませながら、胸を愛撫されて震える忍人の痴態を眺めて、柊は満足げに微笑んだ。指先で揉まれ、煽るように爪を立てられて、忍人は耐えられないとばかりに首を振る。
 そして、中から指をずるりと引き出すと、その手で柊の手を払った。切羽詰った表情で柊の勃起した自身を掴み、指を失い収縮している窄まりに押し付ける。

「んんっ・・・・・・あぅ・・・・・・」
「おやおや。そんなに性急に求めてくれるなんて。天変地異でも起きそうですね」
「うる、さいっ!」

 先端が襞を擦り抜け、内へ入り込む感触に忍人は背を撓らせた。額を流れる汗が頭を振る度にシーツへ散る。ぐっと腰を落として、一息に先端を飲み込むと忍人はひとつ、息を吐いた。
 はあはあと荒い呼吸が部屋に響く。柊が揶揄うように云うと、忍人は鋭く一睨みして、再びゆっくりと腰を下ろしていく。今度は時間をかけて忍人は最後まで柊のものを内側へ受け入れていった。
 根元まで潜り込んだそれは忍人の身体の奥深くまで串刺しにした。欲を吐き出せずにいる忍人の自身が腹に付くほど勃ち上がってびくびくと震え、鈴口から透明な滴が流れる。

「っはあ、はあ」
「大丈夫ですか?」
「ああ・・・・・・だい、じょうぶだ」

 柊が案じるように表情を窺うと、忍人は余裕の無さそうな顔で頷いた。柊の形に押し広げられたそこが馴染むまで、忍人はひたすら深呼吸を繰り返している。
 きゅうきゅうと引き絞るように締め付けてくる中に柊もまた微かに眉を顰めた。忍人は息が落ち着いたのを見計らって、柊の肩へ手をついて、少し腰を浮かせる。ずるり、引き抜かれる感覚。

「ぁっ・・・・・・あ、あ、ああっ」

 口から引っ切り無しに漏れる甲高い擦れた声を忌々しく感じながら、忍人は律動を刻み始めた。柊の太いものが身の内をずるずると擦っては出て行く。その度に忍人は背筋を震わせた。
 無我夢中に上下に何度も腰を振って、柊を煽っていく。自分の良いところに当たるようにと腰を動かすと、先端が前立腺を擦った。だらだらと先走りが溢れて、後ろまで伝う。抜き差しを繰り返せば、じゅぷじゅぷと卑猥な水音が耳を打つ。熱く熟れた忍人の中が柊に絡んで締め付けるのに、柊は切なげな吐息を漏らした。その様に忍人は逆に煽られて、内側が柊を取り込もうと蠢いた。

「ひぃ、らぎっ、もうっ」

 忍人は紅潮した眦を涙で濡らしながら、柊を見下ろした。潤んだ濃藍色と瑠璃色がかち合う。叫ぶように哀願して、何度も首を打ち振った。揺らめく腰がひたすら快楽を追い求めている。
 柊は欲の滲む蕩けた顔をしている忍人を揶揄うように笑んで、その細い腰を掴んだ。ぐっと奥まで押し込まれ、忍人は咽喉を詰まらせて喘ぐ。
 深い場所を抉られて、感覚がおかしくなっていくようだった。中をかき回すように動かされる度に精神までぐちゃぐちゃにされている気がして。自分が自分じゃなくなるようで怖くなる。他人によって、未知の部分を引き出されているかのような。自分から柊を受け入れた時は、恥ずかしさはあったけれどこんな不安感は無かったのに。
 主導権を奪われて、柊の手で暴かれ、溶かされて消えていく最後の砦。剥き出しにされた忍人の心が今にも泣き出しそうな嬌声を上げる。
 目の前が真っ白になって、頭の中で光がちかちかと瞬いた。自然に忍人の手が柊の手に重なって、上からぎゅっと握り締める。まるで、求めるかのような仕草。

「忍人、おしひとっ・・・・・・!」
「っぅ! ぅあっ、く、うっ・・・ひいらぎ・・・・・・!」

 堪らず、勢い付けて上体を起こし、忍人を抱き締めた。いきなり体位を変えられ、思いもよらぬ衝撃に翻弄されて、忍人が苦しげに啼く。不安定な身体を支えようと幼子のように柊の頭にしがみついて、柔らかい髪に頬を押し付ければ、背に回された柊の手に力が篭った。
 自重で更に深いところまで追い込まれ、お互いの腹に挟まれた忍人の自身が擦れて、涙を流して震える。忍人は飛びかけた理性のままに必死に柊の動きに合わせるように動いた。
 肌と肌が密着して、跳ねる鼓動の音が間近に聞こえる。荒い呼吸、熱い吐息、甘く濡れた声、淫靡な水音。そんなものに満たされた部屋は異常なほどの熱気に包まれていた。
 滴る汗に滑る指先が柊の髪を掴んで、ぎゅっと頭を引き寄せる。当たり前のように重なり合う唇。乱れた息まで飲み込むように相手を求めれば、自然、互いを抱く手が強くなる。

「ん、っふう・・・・・・は、ああっ」
「もう、君も限界、でしょう?」

 下から間を詰めて突き上げられ、更には柊の細い指が忍人の膨らみきったものに絡む。前からも後ろからも容赦無く攻め立てられて、忍人は柊の髪に顔を埋めて啜り泣いた。何度か扱き上げ、ぱくぱくと口を開いて涙を流す鈴口を執拗に責め立てる。ずっと我慢していた欲は柊の巧みな手淫に過敏な反応を返した。
 臨界点はすぐそこだった。今までに無いくらいに奥深くまで侵入されて、忍人は身体を大きく震わせて、柊の手のひらへと白濁を放った。背筋を駆け上る快感に力無く目を伏せて睫毛を揺らす。
 次いで、身体の中に注がれる熱に忍人はびくりと身を強張らせた。全てを取り込もうと内側が絞るように収縮して、やがてゆっくりと弛緩していく。
 大きく息を吐いて、忍人は顔を上げた。薄っすらとぼやけた視界にこめかみから汗を流して、こちらを見る瑠璃色の瞳が映る。前もって相談してあったかのように同じタイミングで、唇が重なった。
 穏やかで、優しいキスだった。激しくお互いを求め合った後に交わされる、慈しむような、温もりを分け合うようなキスは忍人をほっと安心させた。愛されているのだと実感させてくれるキス。
 柊は後ろに倒れて、ベッドに仰向けに横たわると忍人を上に乗せたまま、濡れた前髪を梳く。忍人はだらりと柊に身体の全てを預けて、柊の顔を覗き込んだ。

「気持ち、良かったか?」
「ええ、とっても」

 今更といえば今更なのだが、捨てきれない羞恥を微かに頬に浮かべて訊ねると、柊はにっこりと笑って答えた。満足そうに笑われると、それはそれで恥ずかしくなる。
 普段は大抵受け身で柊に任せている分、こんな風に自分から積極的に求めたのはもしかしたら初めてだったかも知れない。どうしても羞恥が勝って、中々自分から行動出来ないでいる忍人にとって、今回は本当に特別なことだったのだ。
 情事後の気だるい疲れに流されるように、裸の胸元に頬を寄せて、忍人はその心地好い温度にうっとりと瞼を伏せた。そのまま微睡みに飲み込まれそうになった、瞬間。
 いきなり身体を反転させられ、ベッドに押し付けられる。繋がったままのそこがぐちゅりと卑猥な音を立て、忍人の中を抉った。萎えていたはずのそれは何時の間にか中で再び芯を持っている。

「っひ、あぅっ・・・・・・ちょ、お前、良かったってさっき・・・・・・」
「でも、まだ満足はしてません」

 一応、二人とも二回は出したのだし、基本的に性に淡白な忍人としてはこれで十分満たされていたのだが、どうやら柊はそうではないらしい。恨みがましい目で睨み上げると、柊は開き直った顔で忍人の足を掴んだ。ぐっと奥まで押し込められて、嬌声が漏れる。
 とろりと零れた精液が太腿を伝う感覚に忍人は身体を震わせて、諦めたように柊の首に腕を回した。幸いにも、明日は休日だ。年に一度の誕生日くらい、願望を叶えてやっても良いかも知れない。
 だからといって、翌朝腰が立たなくなるまでやられるのは困るけれど。
 降ってくる口吻けに応えながら、忍人はそんなことを思い、ゆっくりと目を閉じた。










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 受身じゃない忍人さんが書きたかった。結局、柊に主導権握られちゃったけど(笑)